前回の記事では化学物質リスクアセスメントの大枠の法的根拠を纏めさせていただきました。今回はより詳細な法的根拠について話をさせていただきます。
これを読むことで化学物質リスクアセスメントを実施するにあたり、何を盛り込んでいないといけないかわかるようになりますので、化学物質リスクアセスメント事務局として実施する方は参考にしていただけると幸いです。
それではどうぞよろしくお願いします。
前回、今回の内容について簡単にまとめたものを下記に示します。
ーーーーーーーーーーーーーーーまとめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
SDS通知対象物質(ある一定の危険性等が認められる)については
①リスクアセスメントを実施し(Must)
②労働者に周知することを義務(Must)とした
(危険又は健康障害を防止する措置については努力義務(Want))
<危険性評価の方法>(MUST)
①対象物を製造し、又は取り扱う業務ごと
②考慮しないといけないこと(A or B:併用可)
A :危険又は健康障害を生ずるおそれの程度✖️危険又は健康障害の程度
B:対象物にさらされる程度✖️有害性の程度
(危険性についてはB不可なのでAで実施するのが妥当⁉️)
<労働者に周知する内容>(MUST)
①調査対象物の名称
②業務の内容
③調査の結果
④調査の結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容
<周知する方法>(MUST)
①各作業場の見やすい場所に常時掲示し又は備え付ける。
②書面を業務に従事する労働者に交付する。
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、各作業場に常時確認できる機器(PC等)を設置すること。
<対象となる事業場は>
業種、事業場規模にかかわらず、対象となる化学物質の製造・取扱いを行うすべての事業場が対象
<リスクアセスメントの実施義務対象物質>
対象は安全データシート(SDS)の交付義務の対象物質です。
(一般生活に用いられるものは対象外)
対象物質は以下のサイトで公開してあります。
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/GHS_MSD_FND.aspx
「職場のあんぜんサイト SDS」で検索
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なんとなく「化学物質RA」に関して必要なことがなんとなく理解していただけたでしょうか?
これ以降は根拠となる法令を元に詳細を説明させていただきます。
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「化学物質RA」について大まかに必要なことは下記となっております。
①化学物質などによる危険性または有害性の特定(法第57条の3第1項)
②特定された危険性または有害性によるリスクの見積(安衛則第34条の2の7第2項)
③リスク見積りに基づくリスク低減措置内容の検討(法第57条の3第1項)
④リスク低減措置の実施(法第57条の3第2項(努力義務))
⑤リスクアセスメント結果の労働者への周知(安衛則第34条の2の8)
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①③④については以前の記事で記載させていただきましたので、よければご参照ください。
今回の記事では②⑤について記載させていただきます。
《②特定された危険性または有害性によるリスクの見積(安衛則第34条の2の7第2項)》
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労働安全衛生規則
第34条の2の7
2 調査は、調査対象物を製造し、又は取り扱う業務ごとに、次に掲げるいずれかの方法(調査のうち危険性に係るものにあつては、第一号又は第三号(第一号に係る部分に限る。)に掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用により行わなければならない。
一 当該調査対象物が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又は当該調査対象物により当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度及び当該危険又は健康障害の程度を考慮する方法
二 当該業務に従事する労働者が当該調査対象物にさらされる程度及び当該調査対象物の有害性の程度を考慮する方法
三 前二号に掲げる方法に準ずる方法
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この条文では危険性・有害性の調査方法について規定しています。
対象物毎と取扱う業務毎に必要となってます。悩ましい業務の区別については、自分の事業所では基本密閉系での反応ですので「仕込み」と「抜き出し」については最低限実施していただいてます。
()内に「危険性に関わるものは…」との記載があるので、「一」に示されている方法で調査(評価)を実施するのが無難と思います。
第1項についても下記に紹介します。
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労働安全衛生規則
第三十四条の二の七
法第五十七条の三第一項の危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。次項及び次条第一項において「調査」という。)は、次に掲げる時期に行うものとする。
一 令第十八条各号に掲げる物及び法第五十七条の二第一項に規定する通知対象物(以下この条及び次条において「調査対象物」という。)を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。
二 調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。
三 前二号に掲げるもののほか、調査対象物による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。
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どんな時に調査(評価)するかを規定されており、「原材料等を新規採用」「作業方法や手順を新規採用、変更」「危険性・有害性の変化」時に実施しなければならないことになってます。
弊事業所は数百種類の化学物質原料を扱っているため、上記を抜け漏れなく実施するのは環境安全部門の事務局だけでは無理なので、事業所全体で協力して実施して貰ってます。
例えば開発部門などで新たな実験用の材料を購入する場合は、全対象物質のリスク評価は先に実施しており、「危険及び健康障害を防止する方法」についてはSDS記載された安全対策等を実施して貰う等です。
《⑤リスクアセスメント結果の労働者への周知(安衛則第34条の2の8)》
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第三十四条の二の八 事業者は、調査を行つたときは、次に掲げる事項を、前条第二項の調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければならない。
一 当該調査対象物の名称
二 当該業務の内容
三 当該調査の結果
四 当該調査の結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を
防止するため必要な措置の内容
2 前項の規定による周知は、次に掲げるいずれかの方法により行うものとする。
一 当該調査対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、
又は備え付けること。
二 書面を、当該調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付す
ること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、当該調査対
象物を製造し、又は取り扱う各作業場に、当該調査対象物を製造し、又は取り扱
う業務に従事する労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置するこ
と。
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ここでは周知する内容と方法が規定されています。
周知内容について他事業所等の監査で漏れがあるのが、第1項の4「当該調査の結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容」が多い印象です。忘れないように記録を残していただければと思います。
周知方法については掲示や配布して貰っている部門もありますが、情報を最新で保持するのが難しいので、弊事業所では3「磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し…」を基本としています。